第3分科会 「世界の現実理解」
            「英国の治安と日本人学校」
                       倉敷市立乙島小学校 教諭 藤井 浩
1 はじめに
  海外日本人学校赴任前の研修で,「海外では,安全で あることが当たり前ではない。安全はお金を出して手に 入れるものだ。」とよく言われた。研修時は「そんなも のかな」程度にしか考えていなかったのだが,実際に生 活をしてみると比較的安全な場所といわれているロンド ンでさえ,安全対策について考えされられる場面が多発 した。
 
2 ロンドン日本人学校における安全対策
 ○ 校門・玄関
   常時出入りできる門・玄関は1つだけ。玄関には警備員が常駐。
      塀(高さ3m+有刺鉄線)
          ↓
  西門      北門
(主として車門として使用)

フェンス


 


 

      校   舎
 


    運 動 場

←フェンス
   ↑玄関へ      (ピック門)
   正門           東門
 ○ ピック,ヘルプ
   10歳未満の子どもたちを子どもたちだけにしてはいけない,という英国の慣習に  従い,小学部4年生以下の児童は,必ず保護者(またはそれに代わる大人)に送迎を  お願いしている。この迎えのことを”ピック”と称している。特に1,2年生の児童  は東門で担任の指導のもと,保護者に直接ピックしていただくようになる。小学部5  年生以上の児童・生徒についても保護者の送迎を奨励しているが,3名以上であれば  子どもだけでの登下校も認めている。ただし,部活動(小学部5年生以上が対象)な  どの課外活動の場合は必ず保護者のピックとなる。
   小学部4年生以下の児童が校外学習に出かけるときは,どんなに近くであっても,  保護者にも引率(ヘルプ)をお願いする。ヘルプは,児童3〜4人に対して大人1人  という形で行われ,グループ別の活動になったときに常時付き添っていただくように  なる。これも英国の慣習に従ったものもので,誘拐などに対する防犯を主たる目的に  している。校外学習は各学年年間6回程度あり,該当学年の保護者は,1〜2回ヘル  プに参加することになる。
 ○ 休み時間など
   業間や昼休みは,児童・生徒の遊び場所が5カ所(運動場,バスケットコート,講  堂,体育館,プレールーム)に分散されるため,全教員で当番を決めて監視に当たっ  ている。子どもたち同士が安全に遊ぶことができているかどうかを見守ったり,指導  したりすることはもちろん,外部からの侵入者への対策という一面ももっている。そ  の他の休み時間も,小学部低学年に限り外遊びが認められているため当番がついてい  る。できるだけ子どもたちだけでいる場所を少なくするという考えで,これは登下校  時,業前(運動場での外遊びも可),出張時の教室にも適用される。また,懇談時等  学校の都合で保護者が自宅に不在の場合は,特別教室に子どもたちを集めて学習をし (教師の監督),懇談終了後にピックしていただくようにしている。
 ○ 緊急事態発生時
   緊急事態(暴動,テロ,犯罪,事故,災害など)発生時における安全対策は,マニ  ュアル化されている。内容の概略は以下の通りである。
  1 指示体制…校長を本部長とする緊急対策本部
  2 措置…臨時休校,始業時間の繰り下げ など
  3 緊急対応の基本と留意事項(児童・生徒対象)…在校の場合,登下校中の場合,    在宅の場合 など
  4 保護者への連絡
  5 教職員の心得(平時を含む)
 
3 緊急事態発生時の実際
  2000年7月,ロンドンの地下鉄にIRAによって爆弾が仕掛けられたとき,日本 人学校は以下のように対応した。
  ・ 早朝,学校周辺に住む教員が交通渋滞と多数の警官から異常事態に気づく。すぐ    に緊急対策本部を設置する。
  ・ 関係教職員に出勤の指示が出る。情報収集にあたる。
  ・ 出勤した教職員が学校周辺の見回りをする。
  ・ 児童・生徒の登校が始まる。体育館で待機させる。
  ・ 児童・生徒の出席確認をする。確認できない場合は,家庭に連絡をする。
  ・ バスが到着し始める。通常授業を開始する。ただし,警察の指示により校舎外に    出ることは禁止。
  ・ 爆弾テロらしいとの情報を入手する。
  ・ 最終のバスが到着する。出欠を再確認する。
  ・ 緊急連絡網で保護者に現状の説明と通常授業終了後のピックを要請する。
  ・ 保護者に直接手渡す形でピック。
 
4 終わりに
  体育館で不安な時間を過ごした子どもたち,何時間もバスや自動車に閉じこめられて いた子どもたち・・・。子どもたちの心には何が残っているだろう。爆弾テロに関して は,学校の近くでこの他にも2件あった。日本人学校に直接の被害はなかったのだが, 生々しい現場を多くの子どもたちが目撃している。安全であることを願うのだが,現実 に安全でない(何らかの対策が必要な)時代になってきている。一方で「開かれた学校」 であることも要求されている。このバランスをどうとっていくのか今後も考えていきた い。